「三大賞レース」といえば、M-1グランプリ、芥川賞、ノーベル賞ですよね。(個人の感想です)
もうすぐノーベル賞発表の時期(10月)ということで、ブルーバックス(一般読者向けの科学系の新書シリーズ)に入っている森和俊先生が書かれた『細胞の中の分子生物学 最新・生命科学入門』を読んでみました。
森先生といえば、小胞体ストレス応答研究の第一人者で、ノーベル賞の前哨戦なんて言われることもあるアメリカのラスカー賞をすでに受賞しています。次のノーベル生理学・医学賞をとるかもしれません。オッズでいうとかなり低い(=可能性が高い)はずです。でも、賭けたりしちゃダメですよ。ギャンブラーのDNAが黙っちゃいない、生物学だけにね。とか、言ってもダメです。
本書の「はじめに」にこんなことが書かれてました。
高校1年で生物Ⅰを学びました。(略)生物は生物ごとに違う仕組みを使っているように思えました。
(略)こんな暗記科目は無理だと思い、生物Ⅱは履修しませんでした。
生物学者が高校で生物を履修していなかった、なんてことがあるんですね。そして、大学1年のときに、
興味を持っていろいろと本を読んでいるうちに、まず遺伝物質はDNAであり、DNAにタンパク質の情報が暗号化されて書き込まれていることを知りました。(略)
さらに、この遺伝暗号が大腸菌からヒトまで共通だと知り、暗記科目だと思っていた生物にも、とてもシンプルな根本原理が存在することに本当に驚きました。
このエピソードには講演(YouTubeで見ました)でも触れられていました。この内容って、今の高校のカリキュラムでいうと、生物基礎でも扱う内容ではあるのですが、高校生の皆さん、ふーんくらいでスルーしていないでしょうか。ものすごい事実ですよ。地球上の生物すべてが遺伝情報の記録に同じ言語を使っている(方言程度の差異はあるけど)ようなものですよ。みんな、根っこのところでは一緒なんです。『手のひらを太陽に』みたいですね。
森先生の研究分野は「小胞体ストレス応答」です。高校38年生(=卒業してから35年たっているの意)の私は、小胞体が何かも忘れました。よく考えたら、私は理科Ⅰでちょっとやっただけで、生物は履修していないので、そもそも習っていない気もします。
よく知らない「小胞体」なるワードに「ストレス」が付いて、さらに「応答」が付いています。知らない言葉に、さらに言葉を2つも足されてしまうと、私にとってはかなりのストレスです。「小胞体ストレス応答ストレス」です。
でも大丈夫、本書ではいきなり森先生の専門分野に入るわけでなく(本のタイトルも全般を指すような「分子生物学」となってますし)、まずは遺伝子がどういうものかという話、遺伝子の暗号をもとにタンパク質が作られる話、細胞と細胞小器官の話、タンパク質の働きの話などを経て、やっと第6章で小胞体ストレス応答の発見の話につながります。ちゃんと前提部分が解説されていますので、安心してください、書いてますよ。
生命の基本は各タンパク質の活動で、細胞の中にある「小胞体」は様々なタンパク質の製造ラインの一部。でも、不良品のタンパク質ができて、たまってくることがある、それが小胞体がストレスを受けている状態。そのストレス状態を改善するための反応が「小胞体ストレス応答」です。たぶん合っていると思いますが、信用できないあなたは本書を読んでください。
第一線の研究者が、こんな入門者向けの本を書いたりするんだーと、意外に思ったのですが、「おわりに」を読んでしっくりきました。大学で全学共通科目(文系の人や高校で生物を履修していない人も受講する)の講義を担当されていたことがあり、その講義内容をベースにしているそうです。
なるほど、再利用ですね。不要になったタンパク質をいったんアミノ酸に分解して、そしてそれを材料に必要なタンパク質を作って活用するみたいなことでしょうか。さっそく、学びたての知識を使ってみました。
ちなみに、小胞体ストレス応答研究の分野には強力なライバルのピーター・ウォルター氏がいて、彼との熾烈な争いについても書かれています。重要な発見に関して、ウォルター氏に論文発表で先を越されてしまいます。
目の前が真っ暗になり、奈落の底に突き落とされそうになりました。科学の世界では、最初に発見した者だけが栄誉に浴します。2番手は評価されないのです。
ですってよ、蓮舫さん。
先行したウォルター氏でしたが、同じ現象の解釈に森先生とは異なる点がありました。はたして、正しいのはどちらなのか。森先生は自説の正しさを示せるのか。
ノーベル賞を受賞した暁にはドラマ化するように伝えておきます。朝ドラがいいかな。いや、日曜劇場のほうがよさそうですね。
