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勝手に読書感想文。漫画も映画も含みます

タグ: 平野啓一郎

  • 『決定的瞬間 The Decisive Moment』なんか読まなければよかった

    本はぼちぼち読んでいたのですが、それらは文庫本か単行本で、文芸雑誌というものは、つい最近まで(=50年間以上)読んだことのない状態でした。が、最近、文芸雑誌の魅力に気づきつつあります。

    きっかけは、芥川賞のノミネート作をいち早く読みたいという理由でした。ノミネートされた段階では、単行本化されていないこともありますし、単行本化されていても図書館では予約がたくさん入っていて順番待ち(自分に順番が回ってくる頃には次の芥川賞が発表されている、みたいな人数)になることも多いです。

    でも、文芸誌は図書館利用者の中でもあまりメジャーな存在ではないのでしょうか、(利用者のマークが)けっこう手薄です。単行本に予約が殺到している中、その作品が掲載された文芸誌は待ち人数ゼロ、みたいなときもあります。検索システムのせいかもしれません。「簡単検索」みたいなテキストボックスに作品名を入れても、掲載された雑誌はヒットしないシステムが多いように思います。私が利用している2つの自治体の図書館システムでは、雑誌の内容については雑誌専用の欄に入力して検索しないとうまく見つけられません。

    村上春樹さんの『夏帆─The Tale of KAHO─』がもうすぐ出るぞーってときに、あれ? もしかしたら過去に雑誌に掲載されていたりする? って思って、検索してみたら1章から4章まで全部雑誌で読めるじゃんということに気がつきました。単行本化にあたって加筆や修正はあるでしょうけど。

    ということで、ここまでが前置きでした。イントロさえも短く短くというこの時代に、本題に入らないまま、だらだらと書き続けてしまいました。B’zの「LOVE PHANTOM」なみですね。「LOVE PHANTOM」は、なんというか、こう、期待を盛り上げていく感じがありますが、私の前置きはどうだったでしょうか。いらいらが募ったでしょうか。というか、きっと読むのをやめたのではないかと思います。つまり、これを読んでいるのはあなた一人です。あれ? でもあなたの後ろにもう一人・・・

    つまり、何が言いたいかというと、平野啓一郎さんの新作がちょっと前の『新潮』(2026年5月号)に載っていて、それを読みました、ということでした。タイトルは『決定的瞬間 The Decisive Moment』です。さっそく知らない単語が出てきました “Decisive”。

    意味はですね。”If a fact, action, or event is decisive, it makes it certain that there will be a particular result.”(Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary)だそうです。

    中高生のときに、英英辞典をすすめてきたりする英語の先生とかいませんでした? 知らない単語の説明が、知らない単語でなされているとか無間地獄じゃないか、思っていました。でも不思議なもんですね、50代になるとなんとなくわかるものです。この調子なら80代になる頃にはもっとすらすらと読めることになっているでしょう。

    でも、この “decisive” の意味やそのニュアンスについては作中に出てきますので、あまり気にしなくてもOKです。

    「すらすら読める」と言えば、この『決定的瞬間 The Decisive Moment』はすらすら読めました。断片的な記録、会話、資料のようなちょっと変わったスタイルになっていて、過剰な風景描写や心情描写がないところが私の好みでした。物語のパーツを集めていく感じでしょうか。芥川龍之介の『藪の中』みたいな。

    内容に少し入りますと、主人公の学芸員(香澄)が故人の写真家の展示のためにアトリエで作品を整理していて、ちょっとまずいものを見つけてしまう。うやむやにすれば、展覧会は開催できるだろうけど、それを上司に相談したという判断によって、開催が難しくなっていく。

    正しい判断を毅然と行うことで、困難を無事に克服。・・・とならないのが文学なんですかね。(特に昨今の)コンプライアンス的には、香澄の行動は正解に近い感じがするけど、見つけたものについて、人に話したことによって、まわりに与える影響があまりにも大きすぎる。写真家にも、写真家の遺族にも、香澄にも。

    見つけたものに対しての対応という自分の判断もそうだし、もしこれを見つけていなかったら、気づいていなかったら、無事に展覧会が開催できていたら、というパラレルワールドが頭をよぎる。このあたり、平野氏の『息吹』とも共通するテーマかもしれません。ただ、香澄の思い浮かべるifの世界は手放しで喜べるようなものでもなかったりします。

    「知らなければよかった」なんてシチュエーションは月並みです。しかし、知ったことによって、「知らなかった世界」にも「知ってしまった世界」にも違和感や抵抗感や嫌悪感を感じるようになってしまったら・・・。いったい、どうだったらよかったのか・・・

    ああ、こんな小説読まなければよかった。(というのは最上級の賛辞です)


    同じ号の『新潮』に載っていた、『いまさら』もなかなか面白かったです。

    同級生との関係が長く続く秘訣?『いまさら』(古川真人著)

  • 『何者』と『富士山』と『傲慢と善良』

    最初に読んだのはたしか『富士山』(平野啓一郎 著)だった。婚活をしている女性が、マッチングアプリで知り合った相手のことを、どれくらい理解していただろうか(別れたあとの回想)と自問するような短編。

    『傲慢と善良』(辻村深月 著)も婚活についての話で、相手を値踏みせざるを得ない状況で、登場人物の嫌な面がちらちら見えてくる重たい話。

    私が結婚した頃(20年以上前)は、マッチングアプリなどというものはなく(ガラケーはあったがスマホがなかった)、そのような目的のサイトは出会い系サイトと呼ばれ、ちょっといかがわしいイメージだった。結婚した知り合いがマッチングアプリで知り合ったなんて話を聞くと、オンラインで出会うためのシステムが、真面目な結婚を考える人も・使うものに、いつの間にかなっていたというのが感慨深い。

    どちらの小説も、意識的に「婚活」をしたことのない人(つまり私)が意識しなかった点に気付かさせてくれる。相手のことをよく知らない段階で、この人が結婚する相手として適切かを判断・決断しなければならない。適切というのが微妙で、一生一緒にいて苦がないかみたいなものは自然と受け入れやすい観点だが、自分に釣り合うのか(これは通常、相手が低すぎないかを見ている)とか、ハズレを引いていないのか、この人で妥協できるのか、もっといい人がいるのではないか、みたいなことを考え出すと、急にいやらしい感じが出てくる。

    大抵の場合、おぼろげなタイムリミットが存在していたりする。なので、今付き合っている相手が「じゃない」場合は、すぐに別れて次の審査対象に移る必要がある。たぶん20年前には存在しなかったタイプの苦悩なんじゃないか。

    で、この状況が人を雇うときの「採用」に似ているなあと。大企業が何十人も面接して、上位から何人か採るというのではなく、小さな企業や部門の面接官が、一人分のポストにふさわしい人材を探しているような場合。つまり、この人でいいなら採用、ダメならお断りする。でも、次にどんな人が応募して来るかはこの時点では分からない。今思えば、3人前の彼にしておけばよかったなんて状況もある。

    大企業なら次々と優秀な(だと企業が判断する)人が応募してくるかもしれないが、マイナーな中小企業なら、この程度の人材でも確保しておかないと、次に応募してくる人はいないかもしれない。学生の人気ランキングに入るような企業なのか、就活するまで聞いたこともなかったけどちょっと受けてみたみたいな企業なのか。婚活では、自分が前者なのか後者なのかを意識することになる。

    冒頭の二作と、『何者』(朝井リョウ 著)を並べてみたのは、婚活や就活(従来の就職活動ではなく最近のシューカツ的な)の類似性だったり、こういうものが文学のテーマになるんだなあという驚きだったり。

    この『何者』ですが、語り手の二宮拓人はいろんなことによく気付くタイプで、それゆえ他者の嫌な面に目が行ってしまう。アピール過剰な人、自意識過剰な人、まだなして遂げていないことを語り自分を大きくみせようと必死の人。そんなことをしたところで他人にはバレているよ、なんでそんなことに気づかないのか、想像力のない人たちだ、みたいな感じ。

    ほんと書き出し直後の、筋とはあまり関係のないところなんだけど、

    イェーイ、と、またあのあたりから歓声が上がった。俺の周りにいる人たちはステージ上にいる誰の知り合いでもないのだろう、どういう態度を取っていいのか決めかねているようで、結局ちびちびとドリンクを飲んでいる。

    学生バンドの卒業ライブをライブハウスでやっている場面で、ステージ近くで盛り上がってるのは主に関係者で、たまたま見に来たような人が居心地悪そうにしている場面。こういうときに無邪気に盛り上がって楽しめる人ってのもいるし、居心地悪いなと感じる人もいるし、うちわで盛り上がってしょーもな、と思う人もいるだろうけど、そうではなくて、居心地悪そうな人を観察している人、みたいな感じ。

    細かいことを気にしすぎている側面はありつつも、小説の主人公が他者の詳細を観察して様々な描写や評価を加えることはよくあることなので、序盤の展開に特に違和感は感じず。でも、本当に想像力が欠けているのはどちらなのだろうか、みたいな疑問点が少しずつ見えてくるあたりが面白かった。

    あなた自身の嫌なところに気付き、改善していくためにぴったりの作品。(「お前こそな」という声が聞こえる)