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勝手に読書感想文。漫画も映画も含みます

タグ: 数学

  • 11回の改版を生き延びた『いかにして問題をとくか』の誤植

    本に誤植があったなんて話は、別に珍しくもないでしょうが、でも、私が今、手にしている『いかにして問題をとくか』(ジョージ・ポリア著)は、平成23年9月25日に発行された第11版 第46刷なんですよね。平成23年といえば、2011年ですからそんなに新しい感じはしないかもしれませんが、この本の初版は昭和29年(1954年)6月25日の発行です。初版から57年も経って、11回も版を重ねて、まだ残っとるかね、誤植が、と思ったわけです。

    なんで、誤植が残り続けたのかというと、演習問題のところだからなのではないかと思っています。この手の本の演習問題を解くのはそれなりに時間がかかります。私の場合、巻末の20題の演習問題部分を解く(といっても、分からないときはヒントや解答を読んで理解しようとする)のに、前半の他の部分を読むのと同じくらいの時間がかかりました。本は読んでも、演習問題まで目を通す人は少数派だったのかもしれません。

    第IV部 問題・ヒント・回答の問題12

    12. ボッブとピーターとポールとがいっしょに旅行にでかけた.ピーターとポールは健脚で,どちらも1時間にbマイル pマイルあるく.ボッブは足がわるいので,2人のりの小型車を運転して1時間にcマイルすゝむ.そこで3人は同時に出発して,まずポールはボッブの車にのせてもらい,ピーターが歩くことにした。しばらくしてボッブはポールをおろしポールはさき歩かせ,ボッブはもどってピーターをひろってポールを追いかける.ここでピーターはポールとかわって,最初のときとおなじようにスタートする.このような手つづきを必要なかぎりくりかえす.
    (a)この一行は1時間あたり,どれだけすゝんだか.
    (b)全程の工程のどれだけの部分を車は2人をのせて 2人をのせないで走ったか.
    (c)とくにp=0の場合と,c=0 p=cの場合について結果をためしてみよ.

    修正箇所は上記の打ち消し線の箇所です。

    もう、なんていうか、3人乗れる車を借りてこい!

    運転手以外には1人しか乗れないから、1人運んで、戻って、もう1人を運んで追いつく、を繰り返すというだけなんですけどね。ただ、先に行って降ろした人は乗っていない間もトボトボ(かどうかは知りませんが)歩いて進んでいくわけです。そんなに複雑ではない題意なのですが、歳のせいでしょうか、問題文を読んでいて、混乱してきます。

    外国人の名前というのも分かりにくい。ボとポの類似が微妙に邪魔をする。ボールがポップしたりとかね。

    英語だったら分かりやすいのだろうか。Bob, Peter, Paul。う~ん。運転しない二人がPで始まる名前で、歩く速さがpという風に合わせてあるのかもしれない。

    「2人をのせて」→「2人をのせないで」のところは、回答との齟齬です。どちらを問題にしてもいいんですけど、回答を見ると、のせていない時間が計算されていました。

    (c)のためしてみよ、のところは特殊ケースでも成り立つことを確認するというものです。p=0というのはPeterもPaulも降ろしたらその場から動かない怠け者だと思えばいい。どうせ車で送ってくれるんだから、ちょっとくらい歩いたって、ねえ?というシニカルな態度の2人。っていうか、1つしか載せられない、2つの荷物を運ぶと思えば、イメージが湧きますね。

    で、誤植の「c=0」だとすると、車が動かないってことだから、答えは「一生着けない」ということになってしまいます。PeterとPaulは歩いて行けるかもしれませんが、Bobはずっとその場から動けません。ガス欠ですかね。

    これじゃ問題にならないので、意図されていたのは、「p=c」つまり、PeterとPaulは車と同じスピードで歩ける。Peter&Paul(お、なんかブランド名みたい)が速いのか、車が遅いのか。

    Paulを降ろして、さてPeterを拾いに引き返そうとしたら、Peterがもうそこにいる、という。ちょっとした怪談ですね。夜のトンネルとかで、おばあちゃんが車についてくるやつ。

    他にも見つけたんでついでに書いておきます。

    13問目のヒントのところ、

    13. 条件をいくつかの部分にわけてみよ.それらを書き表すことができるか.

    算術級数を a-b a-d, a, a+b a+d

    (略)

    とかきあらわしてみよ.

    dをbと間違うというベタなやつでした。

    もはや古典となっている名著に11版も残り続けた誤植ですから、ある意味 貴重ですかね。ぜひとも修正して、さらに版を重ねてほしいところです。

    (関連過去記事:『いかにして問題をとくか』と『エレガントな問題解決』

  • 『いかにして問題をとくか』と『エレガントな問題解決』

    両者に共通しているのは、数学の問題自体ではなく、数学の様々な問題の解き方に共通するノウハウやテクニック、その習得のようなメタなテーマに焦点をあてている点でしょう。

    あと、タイトルだけ見てもと数学の本であることがわかりにくいというのも共通していますね。『いかにして・・・』のほうの原題は『How to Solve It』ですからね。直訳すれば「いかにしてそれをとくか」って感じで、「問題」という単語も出てこない。「この前のあれどうなった?」みたいな、熟年夫婦の会話のような。

    最近読んだのは『いかにして問題をとくか』(ジョージ・ポリア著)のほうで、こちらはもう古典ですね。昼休みに会社で読んでいたら、「ああ、その本ね」と言われるくらい。初版の発行が昭和29年(1954年)で、私が持っている版は「第11版第46刷」となっています。「もはや戦後ではない」と経済白書に書かれたのが、1956年ですから、逆説的ですが、まだ戦後感が残っていた頃なんでしょう。

    装丁やフォントが古風でいかしています。自宅の本棚に置きたくなる一冊。こんな感じ。

    例題として取り上げられているのは、高校を卒業していれば(そして真面目に勉強していたなら)分かるくらいのレベルのものです。立体幾何の例題だからといって、立体幾何に主眼があるのではなく、あくまで考え方やアプローチが取り上げられているテーマです。語り口から言って、読者として数学教師も想定している感じです。

    最初の例題は、直方体の3辺が与えられたときに対角線を求めるというもの。教室を例にして学生の興味をひくとよい、というのは納得です。長さや幅や高さを測るのはメジャーがあれば比較的容易ですが、対角線は難しそう。巻き尺だとピンと張れないし。

    そして、こんな対話例が載っています。

    ≪分らないものは何でしょう≫

    ≪直方体の対角線の長さです≫

    ≪与えられているものは何ですか≫

    ≪直方体の長さと幅と高さです≫

    ≪適当な記号をつけなさい.未知のものはどういう記号で表したらよいでしょう≫

    ≪xです≫

    ・・・

    「まだ学生がぼんやりしている場合には」、ヒントをもっと具体化しなければならないと書かれていて、

    ≪図の中に三角形を考えることができますか≫

    ≪図の中の三角形はどんな種類のものですか≫

    ・・・

    のように続きます。解法を直接は示さず、対話や質問によって、相手を真理に導いていく。なんだかソクラテスみたいですね。知らんけど。

    本文の中の例題は少なめで、むしろ言葉で何度も原則を繰り返し強調している印象です。ただ、巻末には20題の問題が載っており、本書を読んで身に着けたスキルを、これらで試せます。

    その1問目はちょっとふざけて(?)いて、

    1.一匹の熊が1点Pから南へ向けて1マイルあるき,そこで方向をかえて真東に1マイルすゝんだ.そこでもういちど向きをかえて真北に1マイルすゝんだとき,ちょうど出発点Pにもどったとする.この熊はなにいろをしているか.

    直角に(南から東、東から北)に2回向きを変えただけなら、元の場所に戻れないのでは? ああ、平面じゃないのね、というあたりは誰でも気づくでしょう。でも、熊の色? ここはちょっとトンチが効いていますね。

    オチ(答え)を言ってしまうと、北極点なのですが、本当にそれだけ? というところがミソだと思います。「あなたはそれが正しいことを証明できるか」という点が強調されていましたが、証明しようとすると、他の答えの可能性もつぶしていく必要がある。

    似たような状況が起きそうな場所に南極点付近がありそうです。南極点そのものからは最初に南には行けないから、これはない。

    南極点に近い場所なら南へ行けます。その後、東 に行き、別の子午線に沿って北へ行く。でも、北極のときと異なり、隣り合う子午線は広がっていく方向なので、元の点には戻れないはず。

    東へ歩くことにより「隣り合う子午線」へ移動する・・・。いや、もし南極点のごく近くなら、1マイル歩くことで「同じ子午線」まで戻ってこれる場所があるじゃないか。ということで、ミステリーが解けるのです。

    読んだばかりで、記憶が鮮やかだったので、長々と書きましたが、この手の数学の問題の解き方を扱った本を読んでみたいと思ったかたには、まずは『エレガントな問題解決 ―柔軟な発想を引き出すセンスと技』(ポール・ツァイツ著)の方をお勧めします。数学のいろんな分野の例題が登場し、章末の問題も充実しています。原題は『The Art and Craft of Problem Solving』です。こちらの本で、数学の Art や Craft に惹かれたら、古典である『いかにして・・・』も抑えておく、という順番でいいのではないかと思います。

    「すゝんだ」って、まじ古典かよ、って思いませんでした?

    【2026-02-07 追記】
    『いかにして問題をとくか』に誤植があったので、うだうだ書きました。
    11回の改版を生き延びた『いかにして問題をとくか』の誤植