両者に共通しているのは、数学の問題自体ではなく、数学の様々な問題の解き方に共通するノウハウやテクニック、その習得のようなメタなテーマに焦点をあてている点でしょう。
あと、タイトルだけ見てもと数学の本であることがわかりにくいというのも共通していますね。『いかにして・・・』のほうの原題は『How to Solve It』ですからね。直訳すれば「いかにしてそれをとくか」って感じで、「問題」という単語も出てこない。「この前のあれどうなった?」みたいな、熟年夫婦の会話のような。
最近読んだのは『いかにして問題をとくか』(ジョージ・ポリア著)のほうで、こちらはもう古典ですね。昼休みに会社で読んでいたら、「ああ、その本ね」と言われるくらい。初版の発行が昭和29年(1954年)で、私が持っている版は「第11版第46刷」となっています。「もはや戦後ではない」と経済白書に書かれたのが、1956年ですから、逆説的ですが、まだ戦後感が残っていた頃なんでしょう。
装丁やフォントが古風でいかしています。自宅の本棚に置きたくなる一冊。こんな感じ。
例題として取り上げられているのは、高校を卒業していれば(そして真面目に勉強していたなら)分かるくらいのレベルのものです。立体幾何の例題だからといって、立体幾何に主眼があるのではなく、あくまで考え方やアプローチが取り上げられているテーマです。語り口から言って、読者として数学教師も想定している感じです。
最初の例題は、直方体の3辺が与えられたときに対角線を求めるというもの。教室を例にして学生の興味をひくとよい、というのは納得です。長さや幅や高さを測るのはメジャーがあれば比較的容易ですが、対角線は難しそう。巻き尺だとピンと張れないし。
そして、こんな対話例が載っています。
≪分らないものは何でしょう≫
≪直方体の対角線の長さです≫
≪与えられているものは何ですか≫
≪直方体の長さと幅と高さです≫
≪適当な記号をつけなさい.未知のものはどういう記号で表したらよいでしょう≫
≪xです≫
・・・
「まだ学生がぼんやりしている場合には」、ヒントをもっと具体化しなければならないと書かれていて、
≪図の中に三角形を考えることができますか≫
≪図の中の三角形はどんな種類のものですか≫
・・・
のように続きます。解法を直接は示さず、対話や質問によって、相手を真理に導いていく。なんだかソクラテスみたいですね。知らんけど。
本文の中の例題は少なめで、むしろ言葉で何度も原則を繰り返し強調している印象です。ただ、巻末には20題の問題が載っており、本書を読んで身に着けたスキルを、これらで試せます。
その1問目はちょっとふざけて(?)いて、
1.一匹の熊が1点Pから南へ向けて1マイルあるき,そこで方向をかえて真東に1マイルすゝんだ.そこでもういちど向きをかえて真北に1マイルすゝんだとき,ちょうど出発点Pにもどったとする.この熊はなにいろをしているか.
直角に(南から東、東から北)に2回向きを変えただけなら、元の場所に戻れないのでは? ああ、平面じゃないのね、というあたりは誰でも気づくでしょう。でも、熊の色? ここはちょっとトンチが効いていますね。
オチ(答え)を言ってしまうと、北極点なのですが、本当にそれだけ? というところがミソだと思います。「あなたはそれが正しいことを証明できるか」という点が強調されていましたが、証明しようとすると、他の答えの可能性もつぶしていく必要がある。
似たような状況が起きそうな場所に南極点付近がありそうです。南極点そのものからは最初に南には行けないから、これはない。
南極点に近い場所なら南へ行けます。その後、東 に行き、別の子午線に沿って北へ行く。でも、北極のときと異なり、隣り合う子午線は広がっていく方向なので、元の点には戻れないはず。
東へ歩くことにより「隣り合う子午線」へ移動する・・・。いや、もし南極点のごく近くなら、1マイル歩くことで「同じ子午線」まで戻ってこれる場所があるじゃないか。ということで、ミステリーが解けるのです。
読んだばかりで、記憶が鮮やかだったので、長々と書きましたが、この手の数学の問題の解き方を扱った本を読んでみたいと思ったかたには、まずは『エレガントな問題解決 ―柔軟な発想を引き出すセンスと技』(ポール・ツァイツ著)の方をお勧めします。数学のいろんな分野の例題が登場し、章末の問題も充実しています。原題は『The Art and Craft of Problem Solving』です。こちらの本で、数学の Art や Craft に惹かれたら、古典である『いかにして・・・』も抑えておく、という順番でいいのではないかと思います。
「すゝんだ」って、まじ古典かよ、って思いませんでした?
【2026-02-07 追記】
『いかにして問題をとくか』に誤植があったので、うだうだ書きました。
11回の改版を生き延びた『いかにして問題をとくか』の誤植

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