お笑い好きと言っても、見るのが専門で自分が人を笑わせようとは思わない人もいれば、面白いことを言って人を笑わせるのも好きという人もいるでしょう。
それとはまた別に、笑いの理由や構造を分析するのが好き人というタイプの人も、世の中にはきっといて、そういう人に向いている本です。そして、著者の井山弘幸氏は、たぶんそんなタイプの人です。
まえがきに書いてあるのですが、井山氏は大学の先生で「お笑い論」の講義を5年間行ったそうです。科目名は「考える葦の冒険」です。これはステルスですね。こういうのは大抵、「お笑いの講義? そんなものはけしからん」なんて、誰かが言い出したときには、時すでに遅し、「5年間やってて去年終わりましたよ」とか、なし崩し的に実行されてしまうものです。許可をもらうより、あとから許してもらう方が楽だ、みたいな言葉ありましたよね。という意味で、この講義は「冒険」だったのでしょう。その成果の一つが、この本のような気がします。
井山氏のお笑い論(笑いの基本構造には必ず「二世界形式」があるというもの)を理解できるか、納得できるかはさておき、この本にはたくさんのお笑いネタの書き起こしが載っており、その部分だけでも価値があるのではないかと私は思うわけです。
今も人気の芸人もいれば、解散したグループや引退した人のネタなんかもあり、爆笑オンエアバトル世代にはたまりません。
そして、栄えある本書の最初を飾る芸人は、ダンディ坂野です。 ・・・なんで?
まあ、第一章 第一節の「ダジャレ」の典型例だからでしょう。そして、書き起こされているネタを読んで思いました。ダンディさんの知らないところで、ダンディさんがすべっている・・・
いや、やっぱネタは演じているのを見ないとダメだな、なんて思いかけましたが、それは間違いでした。読み進めていくと、活字で読んで普通に笑えるネタがたくさんありました。活字だからダメなのではなく、ダンディさんだから・・・。だいたいあなた、ダンディさんのネタで笑ったことありますかっ? 私はあります。たぶんあると思います。そんな気がします。
お笑いのネタは「作品」として残る割合が少ないということも、まえがきに書かれていました。たしかに楽曲だと、歌唱や演奏がコンテンツとして流通するだけでなく、楽譜や歌詞が記録されて、出版されたり、別の人によって演じられる(カラオケとか、カバーとか)こともありますよね。演劇の脚本も売られているし、それが時代を越えて再演されたりもしますよね。
お笑いのネタをそのままカバーというのは、ないですね。一度、お笑い芸人が、他のお笑い芸人のネタをそのまま演じる(パロディとかではなく忠実に再現する)というのを見たことがあります。ある意味かなり面白かったのですが、それはありえない状況が生み出す面白さであって、いかにお笑いネタが他者によって再演されにくいものであるかの証明にもなるような気がします。例外は落語でしょうか。
この本にネタが登場する(書き起こされている)芸人さんを、目次から列挙します。
ダンディ坂野、いとうあさこ、末高斗夢、爆笑問題、今いくよ・くるよ、酒井くにおとおる、オジンオズボーン、号泣、ザ・プラン9、アンジャッシュ、ルート33、ハリガネロック、タイムマシーン3号、ラーメンズ、オリエンタルラジオ、パッション屋良、瞬間メタル、クールポコ、ヒロシ、デッカチャン、小梅太夫、出雲阿国、アクセルホッパー、ですよ、つぶやきシロー、だいたひかる、摩邪、井上マー、テツandトモ、いつもここから、レギュラー、インパルス、フットボールアワー、ライセンス、チュートリアル、ムーディ勝山、バカリズム、笑い飯、ますだおかだ、POISON GIRL BAND、タカアンドトシ、ホーム・チーム、アンタッチャブル、キングオブコメディ、THE GEESE、おぎやはぎ、青木さやか、スピードワゴン
なんか、書き写しながら、フジテレビの27時間テレビの最後のスポンサー紹介を思い出しました。
いやー、それにしてもパッション屋良のネタを再び味わうことになるとは思いませんでした。たしか、活動の場を地元の沖縄に移されたというのをテレビで見ました。沖縄といえば? ・・・ そうだね、プロテインだね。
井上マーの尾崎豊ネタもよかったです。ほつれたデニムの衣装が思い浮かびます。あとバカリズムは解散前のグループの時のネタだったりします。なんか歴史的価値が漂い始めています。
そしてこの本の特徴の一つとして、章末に練習問題があります。さすが、大学の先生です。主にネタの穴埋めなのですが、ダンディさんのダジャレネタの答えがなかなか思いつかずに、若干イライラしながら、考え込んでしまいます。ふと、「私は今、何をやらされているのだろうか?」と我に返ります。お笑いネタみたいなものに対して真面目な顔をして理屈をこねる、この本自体が壮大なボケなのかもしれません。









