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勝手に読書感想文。漫画も映画も含みます

50代のおじさんの『私たちはたしかに光ってたんだ』の読み方

Xでピストジャムさんが推しているのを見て、読んでみました『私たちはたしかに光ってたんだ』(金子玲介 著)。

苦手なんです。

何が? というと、登場人物がいっぺんに初登場する場面です。序盤にバンドメンバーの顔合わせのシーンがあります。そこで「さなぎいぬ」というバンド名が決まります。顔合わせなのでいきなり4人が登場し、そして会話します(そりゃするだろう)。そして、よりによって、全員女子で、全員同世代です。女子高校の軽音楽部なのでしょうがないのですが。

これが、小学生の男の子、女子高生、ハゲのおじさん、おばあちゃんの四人組だったら、キャラを混同せずに会話を楽しめるのですが、キャラがまだ明確にイメージできていない段階での、女子高生の4人の会話を追うのはつらいです。3人目の名前を聞くと、1人目の名前を忘れるのが50代です。

いっぺんに出てくるのがよくないのなら、桃太郎みたいに1人ずつバンドメンバーを増やしていけばいいのでしょうか。でも、そんなRPGみたいなバンドも変です。ちなみに、『桃太郎電鉄』は、『桃太郎伝説』というRPGからのスピンオフであるということを知っておくと、何かの役に立つかもしれません。でも、たぶん立ちません。

おっと脱線はこれくらいにしておきましょう。電鉄で脱線なんて縁起でもないので。

でも、この『わたひか』には、こんな便利なページがあります。単行本では8ページです。現時点では単行本しか出てませんが、文庫化を見越して、「単行本では」とことわってみました。

メンバー

 柏葵(かしわ あおい)(ボーカル)

 三浦朝顔(みうら あさがお)(ギター・コーラス)

 広瀬緋由(ひろせ ひゆ)(ドラムス)

 小柴夢乃(こしば ゆめの)(ベース)

旧メンバー

 室瑞葉(むろ みずは)(ベース)

いいですね。さっき混乱しかけたのは、主人公の瑞葉と、ボーカル、ギター、ドラムの3人が、顔合わせをするシーンでしたので、このページを見ながら、なんとかキャラを叩き込んでいきましょう。

このページは、26歳の瑞葉のシーンの流れで本文に登場します。『百年の孤独』の文庫版の家系図みたいな「付録」ではありません。「アウレリャノ(17名)」ってのは、笑かしにきてますよね。ガルシア=マルケスも新潮社も。

自然にメンバー一覧のページを入れてあるのがいいですね。これって、記憶力が衰え始めている中高年向けのサービスなんじゃないかと思っています。

コンサルをやっている知人が、箇条書きより表の方がいいって言っていたので、ちょっと情報(顔合わせの自己紹介より)を追加して表にしてみました。

パート啓栄女子への入学音楽経験好きな音楽プレゼント
かしわ あおいボーカル高等部から子役でミュージカルなどBUMP OF CHICKEN、RADWIMPS、ASIAN KUNG-FU GENERATION手ぬぐい
三浦みうら 朝顔あさがおギター・コーラス高等部からヴァイオリン、エレクトーン、ギター(二か月)ショパン、ビートルズ、民謡流動食
広瀬ひろせ 緋由ひゆドラムス中等部からなしORANGE RANGE、スキマスイッチ、ジャズアイス
小柴こしば 夢乃ゆめのベース(途中参加メンバー)啓栄大学からベースおたく
むろ 瑞葉みずはベース(旧メンバー)高等部からなしRIP SLYME、ポルノグラフィティ、チャットモンチープリクラ

「プレゼント」が何を意味しているのかは読んでからのお楽しみ。これでだいぶキャラが明確になったのではないでしょうか。瑞葉は主人公で語り手だし、朝顔は天才肌でリーダーで話し方に特徴があるので、この二人は大丈夫でしょう。あとは、葵と緋由を見分け(読み分け)られればOKです。夢乃が出てくるのは後半だし、後輩だし、ちょっと冷めた感じでキャラも立っているから混同することもないでしょう。

さて、この「わたひか」、序盤はちょっとピンときませんでした。というのも、若い女子どうしの会話のノリというのがなかなか入ってきません。私は歳をとりすぎたのかもしれません。あと、音楽用語を知りません。「オクターブ」も「奏法」もなんとなくわかりますが、「オクターブ奏法」がわからんとです。あと、会計用語(なのかもわからないが)とかも。

でも、ぐっとつかまれた場面。瑞葉が緋由に「ちゃんとやってくんない?」と言うのをきっかけに、バンドにかける思いの差から、ゴタゴタしてしまう場面です。人間関係の軋轢は小説の醍醐味ですね。

何かにかける思いの強さの差とか、力の入れ方の不均衡が、関係がギクシャクする端緒になるっていうのは、人生のあるあるなのではないかと思います。

楽しくやれればいい部活、全国大会を目指す部活、死ぬ気で働くもんだと思っている高度成長期のサラリーマン、「食えればいいんで、昇進とか、そういうのいいです」みたいな若手。

うろ覚えの記憶で申し訳ないですが、『火花』でもそんなシーンがありました。相方が用事があるからネタの練習休むみたいなことを言ったときに、お笑いをやりに東京に来ている自分たちにとって、稽古以上に優先させるものがあるのだろうか、みたいな疑問をもつ主人公。いつの間にか、ゴールがずれていく二人。

上を目指す方が常に正しいのか、というのは難しいテーマです。上を目指す朝顔、朝顔の影響で上を目指すことに朝顔以上に執心して、自らも努力をし、メンバーに努力することを要求する瑞葉。

でも、芸能の世界には努力ではどうにもならない壁があり・・・

レコード会社の徳田なる人物の発言、

「瑞葉ちゃんのベースさ、」

(略)

「上手いは上手いんだけど、あんまおもしろくないんだよね」

(略)

「技術はあるのにセンスがないっていうか、」

そして徳田は、朝顔が作ったフレーズと瑞葉が作ったフレーズの出来の差に気づいたことを伝えたあとに、

やっぱさなぎいぬ、朝顔ちゃんだけだね

などと言い放ちます。ビジネス的に考えれば、必要なのは朝顔一人で他のメンバーは不要かもしれません。不要どころか邪魔かもしれなくて、なんなら切り離して、よそで見つけてきた他のメンバーとあわせて、最適構成にしてしまうのが近道なのかもしれません。メンバーを部品のように扱う悪い大人です。でも、それがビジネスなのでしょう。

誰よりも(もしかしたら朝顔よりも強く)バンドの成功を望む瑞葉が、バンドの成功に必要なパーツは自分ではない、という確信にいたる。切ないです。これからは、ウィキペディアに載っているいろんなバンドの「旧メンバー」の欄を見るたびに、その裏にあるストーリーのことを思って、泣いてしまうかもしれません。

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