妻が読みたいというので、自治体の図書館で予約したんですが、順番が回ってくるまでに5か月かかりました。その自治体では7冊所蔵していたのですが、予約した時点では数百番目だったと思います。
妻が本をリクエスト(私の図書館利用者カードで予約)するときは、たいていK-City出身のFさんのおすすめだったりするのですが、今回借りたきっかけを本が届いたときに聞くと、「忘れた」とのことでした。思い出せよ、と思いましたが、考えようとさえしていないことが手に取るように分かったので、それ以上は追及しませんでした。
タイトルは『アルプス席の母』で、帯には、「全母親が落涙必至!!」とか、「こんなん、泣くにきまってるやん。」とか書かれていて、私としては普通だったら避ける系です。
「泣ける!」を売りにされた途端、泣けなくなります。というか、そもそも泣くことを目的とはしていないのですが、なぜ、そんなに、みんなが泣きたがっているのだと決めつけてくるのでしょうか。
まあ、でもこういうのは大人の事情というか、出版社とか編集者によるマーケティングであり、プロモーションでしょうから、あまり気にしてもしょうがないとも思いました。
なにより、順番が回ってくるのに5か月もかかったので、今回読んでおかないと、次はないぞ、という強迫観念にかられ、読むことにしました。
読んでみて驚きました。この作品は、関西人の嫌なところ、高校球児の甲子園に行きたいという思いに付け込む汚い大人(学校や監督)たち、子供の活躍を自身の手柄のように勘違いし横柄に振る舞う、子離れできない親たち、などを描いた社会派作品でした。
冒頭、母親の菜々子が甲子園の観客席にいるシーンから始まります(このあと、過去に戻って、経緯が描かれ、また甲子園の場面につながってきます)。菜々子が息子の航太郎の名前を大声で叫ぶと、他の父母たちがギョッとするという場面があるのですが、なぜかというと、
航太郎が入学したときにもらった十数ページにも及ぶ野球部父母会の心得には、ひたすら禁止事項が記されていた。
- 日傘禁止
- 間食禁止
- サンバイザーは白色のみ
- 水分の補給は選手と同じタイミングで。たとえば試合中ならイニング間
- 監督への直接の声がけ禁止
- 球場では三年、二年、一年の順に前列から隙間なく座っていく
- 後輩の親が座るのは、先輩の親が全員座るのを見届けてから
(略)
- 試合中の単独での声出し禁止。声援は応援団の指示通りに
もちろん小説です。フィクションです。でも、この作品の性格上、「そんな父母会ねえよ」とか、「そんなルールありえねえ」とか、そういうつっこみをうけるような設定にはしないはずです。
作者の早見和真さんは元高校球児で、甲子園に何度も出場している名門高校の出身です。そのあたりを踏まえると、高校野球父母会あるあるに違いないという気がしてきます。
こんな場面もあります。佐伯さんというのは、野球部の監督です。
「私も知らなかったんだけど、これうちの学校の伝統なんだって。毎年、新チームになったときに各家庭から八万円ずつ集めて、それを佐伯さんに渡してるって。佐伯さんが中学生のスカウトとかのために地方に行ったりするのに学校からお金が出てないらしくて、そういう活動費に使ってもらうものなんだって」
必要な経費があるなら、会費なりなんなりの形で集めて、領収書ももらうようにして、収支報告もちゃんとやればいいのですが、メールは使うな、文書は残さない、封筒に入れて直接手渡し、と裏金臭がぷんぷんです。
これを監督に渡すシーンが面白い。菜々子の1つ上の会計係が金を渡そうとすると、監督は
「こんなものは受け取れません」
いや、そこをなんとか、みたいなやりとりがあり、
「わかりました。それでは、これは部の活動費として大切にお預かりさせていただきます。しかし、来年以降は絶対にこんなことしないでくださいね。約束してください」
この茶番を見ていて、菜々子は思わず、聞いてしまうのです。
「本当に来年以降はしなくていいのでしょうか?」
まとまりかけたところで、場が凍り付く発言。ぞくぞくしますね。
そう、この作品は高校球児を支える母親を描いた感動作、というカムフラージュをしているが、実は高校野球の暗部を描く、社会派告発作品だったのです。
というのは、なんだか言い過ぎです。たぶん普通に感動的な作品です。おい、どっちなんだよという方は、読めばいいと思うよ。

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