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勝手に読書感想文。漫画も映画も含みます

『生命はデジタルでできている』

情報学で文字コード表を学び、生物学でコドン表を学んだとき、その類似性に気づいた人は多いんじゃないかと思います。

核酸の塩基の種類は4種類(A、G、C、T)。2つ組み合わせれば4×4=16種類まで表すことができる。人体で作り出されるタンパク質を構成するアミノ酸の種類は20種類だから、2つの組み合わせでは足りない。じゃあ、このアミノ酸を指定するためには、3つ組み合わせる必要があるな。というわけで、コドン表では塩基の3つ組が使われることになる。実にデジタルな感じです。

文字コードを作ろうとしたときに、文字が何種類あるから1文字あたり何バイト必要になるか。英数字とシンプルな記号だけなら1バイトで足りるけど、日本語だとそれでは足りないので、1文字あたりのバイト数を増やす必要がある、みたいな話とそっくりです。

というあたりが、『生命はデジタルでできている』(田口善弘著)というタイトル兼キャッチコピー(?)につながるわけです。

著者の田口先生の経歴を見てみると、もともとは物理学の分野から、バイオインフォマティクスに入ってきた方のようです。だからなのか、ちょっと違った観点で生物学を捉えるというところに特徴がある気がします。

私自身は、化学と物理は履修したものの、生物学はきちんと学んだことはなかったので、田口先生の(時には厳密さを割愛した)ざっくりとした説明には非常にはまった、、、、感がありました。

ヘモグロビンのところが、すごく腑に落ちたので紹介します。肺で酸素を受け取り、各組織で酸素を渡すことで、酸素を運ぶヘモグロビン。

こう書くと、ヘモグロビンが何か意思のようなものを持ち、役割を担っているかのようです。しかし、なぜそのようなことができるのか、というところがブラックボックス的にみえます。

本に書いてあったことを、私なりの理解で書いてみると・・・、分子間がくっついたりくっつかなかったりはクーロン力(電気のプラスとマイナス)による。分子の部分的な構造により、くっつきやすい形や場所などがある。反発するときも同様。くっついたら離れないような強い関係もあれば、くっつくんだけど離れやすい弱い関係もある。

ヘモグロビンがくっつく相手は、酸素分子である。そして、ご多分にもれず「弱い結合」のパワーをフルに活用している。

なぜ「強い結合」ではなく、「弱い結合」≒「そこそこ強い」結合なのか、

そうじゃないと、肺で酸素を拾ったが最後、細胞に行き着いても「手放せない」からだ。周囲が高酸素濃度なら、酸素を取り込み、低酸素濃度なら放出する、という機能を果たせない

ヘモグロビンは「ここが肺だから酸素とくっつこう」とか「ここが酸素を必要とする組織だから酸素を手放そう」などと、複雑な判断をしているではないんですね。

高濃度だからたくさんくっつく、もちろん一部は離れていくけど、まわりが酸素だらけだから、また酸素に出会ってくっつく。低濃度だと、手放したら、まわりには酸素がほとんどいないので、次はなかなかくっつかない。結果的に、酸素を運んだ形になる。ごくごく単純な原理で、ヘモグロビンが酸素を「運ぶ」仕組みが説明できます。

このあと、タンパク質の反応が特異的であるという話も、すでに説明した性質の具体例として登場します。ヘモグロビンは酸素と特異的にくっつくが、他の分子とはそうならない。そうなると、なんでもかんでも運んじゃうので。

ただ、例外というか想定外だったのが一酸化炭素で、一酸化炭素がくっついたヘモグロビンは、一酸化炭素を手放せないせいで、酸素を運べなくなってしまう。なので・・・

結果、その生物は酸素がたくさんある空気を呼吸しながら、酸欠で窒息死する。

酸素とは結合するが、一酸化炭素とは結合しないような、そんな他のタンパク質を、酸素の運び屋として採用できなかったのか、という疑問には、

それはたぶん、一酸化炭素とヘモグロビンは長い進化の過程でめったに出会わなかったからだ

火を日常的に使い密閉性の高い建築物で生活する現在ならともかく、人間の歴史のほとんどの時期においては、一酸化炭素はもちろん火自体が珍しかった。そのような環境においては、一酸化炭素とは結合しないヘモグロビン的なタンパク質の獲得は、合理的な進化ではない、ということなのでしょう。

今まで、断片的な知識として知っていたことが、一つの流れで見えてきた、そんな気がしました。

分子生物学の教科書を読んだけれど、なんだか腹落ちしない、覚えることが多すぎて、消化しきれない、みたいなときに、本書のように柔らかい比喩を駆使した本を読んでみると、新たな納得感が得られるかもしれません。

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