世の中いろんなミステリーがありますが、『テウトの創薬』(岩木一麻 著)は「創薬ミステリー」ということになるのでしょうか。出版元のKADOKAWAのサイトには「医薬ミステリ」と書かれていましたが、医薬品の性質というよりは、薬を世に出していくプロセスみたいなところのほうに特徴があると、私は思いました。
創薬ベンチャーのトトバイオサイエンス社で研究開発部長をやっている進藤颯太郎が主人公です。トトバイオでは、蚕を使った抗体医薬品の大量生産を目指していますが、行く手には様々な障壁が・・・みたいな感じです。
私もそうだったんですが、「抗体医薬品」って何? 普通の薬とどうちがうの?って人も多いと思います。そこがうまい構成になっていて、序盤にトトバイオのCEOのデニス・パーシバルが東京国際フォーラムでプレゼンをする場面があって、投資家などの医薬の専門家ではない人向けに、彼らのビジネスの対象、つまり抗体医薬品がどういうものであって、どのような背景や課題があって、それをどう克服しようとしているかを説明します。約10ページがプレゼンの描写にあてられており、ここで医薬に疎い読者も基礎知識を身に着けることができ、その後のストーリーをより楽しめるようになっています。
目次を見ればわかるのでネタバレの許容範囲だと思いますが、中盤くらいに「第2章 連続殺虫事件」がおきます。殺されるのは虫。そして現場は厳重に管理された医薬品の生産設備(つまり密室)。章のタイトルを見るとコミカルなのかと思いきや、そうでもありません。
その後の展開は、ミステリというよりは、株価、競合他社、敵対的買収などビジネス小説のようです。敵の腹心を寝返らせるための調略とかね。トトバイオは大学との共同研究をしているので、企業だけでなくアカデミアも絡んできます。
そして、この大学の先生がクセモノというか、弩級の悪役です。ずるいとか悪いとかだけではなく、人に恐怖を感じさせるキャラクターです。でも、研究遂行能力は高く、成果をあげていて、業界でも力を持っていたりするから性質が悪いです。こういう悪役がいると、俄然 話が面白くなります。
ストーリーを堪能したあとに、気が付けば、医薬品にも詳しく(なったつもりに)なれる、1錠で2度おいしい小説となっております。
2026-03-02追記
創薬をテーマにした別の小説を読みました。テイストが全然違って、こちらも興味深かったです。
『ビギナーズ・ドラッグ』は新人マネージャーの参考になるかも


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