先日、第一回 私が選ぶ「もうすぐ芥川で賞」を小砂川チトさんが受賞されましたので、私は小砂川さんの作品を全部読むことになりました。(いきさつ:2026年上半期の芥川賞を予想・・・はせずに、賞を新設する)
まず手始めに『家庭用安心坑夫』を読みました。出社(電車通勤)、昼休み(弁当を食べながら)、帰宅(電車通勤)で読めるくらいの、私が大好きな長さです。
帯に「第65回 群像新人文学賞受賞」と書かれています。デビュー作なのですね。そして、「第167回 芥川賞候補作」とも書かれています。ということは逃したのですね。芥川賞は勝手にノミネートされて、勝手に落とされるので、なんだか告白していない人に振られた、みたいな感じにならないですかね。でも、あこがれのマドンナみたいな存在だから文句を言う人はいないんでしょうか。誰か、辞退したら面白いですね。「え? そういうんじゃないから」みたいな。
そういえばレコード大賞は、「○○賞」を何作品かが受賞して、その中で「最優秀○○賞」を選ぶから、ノミネートされただけという結果はないですね。
いいかげん内容に入ります。主人公の藤田小波の父親は尾去沢ツトムという名前の炭坑夫(今は炭鉱夫という表記の方が一般的?)です。
と、書いてこれが真実と言っていいかどうか、ちょっと迷うところです。実在する尾去沢鉱山を知っている人は、坑夫の名前が「尾去沢ツトム」という時点で、これは「坂井ほや丸」や「喫茶去こひえもん」の類ではなかろうかと気づくかもしれません。誰が知っとんねんというツッコミに対しては、坂井市民とブルックス社員が知ってますぅー、と返しておきましょう。
小砂川さんの『ゾンビ回収婦』では仮想空間が主な舞台でしたが、『家庭用安心坑夫』は現実世界を舞台にしつつも、何が現実なのか的カオス感は負けません。(今気づきましたが、「夫婦」になってますね)
だいたい、小波の父親がツトムであるという設定が、ずっとよく分かりません。「生きている」ツトムも出てきますが、彼との関係もよく分かりません。ただ、アノニマスな殉職者のイメージがツトムに込められていると思うと、ちょっとグッときます。
ツトムが何者かについては序盤に説明があって、
秋田の実家近くには、〈マインランド尾去沢〉という廃鉱山を転用したテーマパークがあって、ツトムはその坑道の中腹に立っている、坑夫を模したマネキン人形のうちの一体だった。
「マインランド尾去沢」は、今は「史跡 尾去沢鉱山」と改名して、8名以上の団体のみ受け付ける完全予約制になっているそうです。ツトムが誘拐されないための対策かもしれません。
私はマインランド尾去沢に行ったことはなく、坑夫のマネキンを見たこともないのですが、けっこうイメージできます。史跡系にはよくあるので、類似したものを見たことある人は多いのではないでしょうか。縄文時代の展示とか(笑い飯の奈良県の歴史博物館のネタを思い出す)、お城にいる武将の人形とか、工場で働く人の人形とか。何年も前からそこにいて、そして何年後にもそこにいるであろう存在に思いを馳せる感覚。
あの人形の質感。リアルなようで、よく見るとそうでもない造形。雑に扱われる宿命。博物館以外でも、田舎道でたまに見かける警察官の人形も味があったりしますよね。『ブラックジャック』の『人形と警官』の回を思い出します。
小砂川さんは、言葉を発さない、感情を持っているのかどうかもわからないような人間ならざるもの、そしてそれに対して登場人物が抱く複雑な感情やインタラクションを描写するのに長けているのだなあと思いました。小波とツトムの鍋のシーンには、今年の「鍋・オブ・ザ・イヤー」をあげたいくらいです。ついでなので、『ゾンビ回収婦』には、「サプライズ・オブ・ザ・イヤー」をあげておきます。
・・・とここまで書いて、読んでいない人は何のことだ分からないかもという気もしてきました。でも、はっきり認識しました。私はこれらの本を「紹介」しているのではなく、『坑夫』や『ゾンビ』を読んだ人と感動を分かち合いたいのだと。地図は載せませんので、お腹をすかせて、探してください。


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