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勝手に読書感想文。漫画も映画も含みます

『アンチ・グッドモーニング』と「あのエレベーター」

アイキャッチ画像:Krzysztof Golik投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, リンクによる

芥川賞(2026年上半期)の発表前にノミネート作品を全部読んで、どれが受賞するか(心の中で)予想するという一人企画をやっています。知らんがな、という声が聞こえてきそうですが。

八木詠美さんの『アンチ・グッドモーニング』は3つ目に読んだ作品でした。読む順番は図書館の貸出・返却状況に左右されます。だって、もう掲載されていた文芸誌のバックナンバーが売っていないんですもの。

読み始めたときは、中国の廃墟マンションを美術館に設計しなおす『丹心/まごころ』や、空行なしで最後まで主人公の心情と発言が混在した文体が続く『ソリティアおじさんがいた頃』(過去記事)と比べると、普通の作品なのかなと思いました。

普通というのも変ですが、文体にクセがあるわけでもなく、現代の日本が舞台で、リモートワークをする会社員が主人公ということで、すっと入っていけそうだなあと。でも、読み終わってみると、一番ぶっ飛んでいました。この「ぶっ飛ぶ」という言葉は死語のような気がしますが、死語を蘇生していこうという一人企画をやっておりまして、積極的に使っていきたいと思います。なんちゃって。

記事につけたタイトルをまず消化しておきましょう。「あのプール」と言えば、「あぁ、あれね」という男性諸氏は多いと思いますが、全年齢対象のレーティングを標榜する当方といたしましては、これ以上プールの方は掘り下げないことにします。

では、「あのエレベーター」とは、どのエレベーターでしょうか。

「ドイツの黒い森地方地方には不思議な建物があるんですよ。カーニバルで有名な中世の町、ロットヴァイルにです。250メートルほどある高層ビルなんですが、窓がほとんどなくて誰も住んでいないしテナントのお店も入っていない。さて、何のためのビルだと思いますか?」

どういう流れでこんな話が出てくるかは、読んでのお楽しみで、その答えは、

「エレベーターの試験用のタワーで、中には12本のシャフトがあるんです。そこを試験用のエレベーターがひたすら上がったり下がったりしているんですよ。想像できます?」

あー、知ってるー! 知ってると嬉しくなりますね。知ってるといっても、ちょっと前に読んだ小川洋子さんの『夜明けの縁をさ迷う人々』(過去記事)に収録されている『イービーの叶わぬ望み』に出てきたから知っているという、知りたてのほやほやなのでした。

文字通り生まれながらのエレベーターボーイ(Elevator Boy)のイービーが、エレベーターを追われる(どういう状況か、想像を膨らましてみよう)ことになったときに、安住の地のように語られるのが、このエレベーター塔なのでした。なんだかガンダーラみたいに。

ドイツの深い森に高層ビルがあり、人をのせていないエレベーターが来る日も来る日も上下し続けるというイメージは、文学の要素として魅力的ですね。

尾崎放哉ほうさいの「咳をしても一人」が思い浮かびました。「最上階についても無人」みたいな。どうやら私には文学のセンスがないようです。

尾崎つながりだと、尾崎豊っぽく「押されたボタンを無視したとき 自由になれた気がした 15の階」なんてどうでしょう。「エレベーターが叫んでる。大人たちが作ったシャフトを上下するのは、もうまっぴらなんだ!」とか。後者は尾崎というより、井上マーでした。

最近、何書いてたんだっけ?ってことがよくあります。寝不足かもしれません。

主人公の野上のがみさんはSコーポレーションという健康食品メーカーで働く女性です。このSコーポ―レーションがコンサル会社に買収された頃から徐々にブラックになっていきます。この会社「『健幸』宣言」なんてものを出していて、働きやすい職場をもつウェルビーイングを重視する会社として対外的には知られているという、なんとも皮肉な状況。ONとOFFが切り替えられないリモートワークのせいか、野上さんはある日突然、不眠になります。もがき苦しむ描写が痛々しいです。

きっと、こんな会社あるよなあ。みたいな風刺的な側面も感じます。資料を作るときは「余白」を残すという職場の先輩のアドバイスが秀逸でした。指摘して直すところがないと上司は何か見つけだそうとして、些末なところをいじって資料がおかしくなると。

(略)ここの部分は迷っているから相談にのってほしいって言って何かアドバイスさせれば、向こうも安心するでしょう? 仕方ないのよ、自分の手を動かさずにお金を稼ごうとする人ほど不安になりやすいの。(略)だからわたしたちは彼らの存在意義を作って、適当に安心させてあげればいいのよ。

「アドバイスさせ」るとか、「自分の手を動かさずにお金を稼」ぐとか、「安心させてあげればいい」とか、なかなか毒が効いています。八木さんって会社員経験者?

なんてあたりのことを書くと、隠れブラック企業を風刺する社会派小説かと思ってしまうかもしれませんが、それでは終わりません。途中からだんだん変になっていきます。どの辺からだったかなー、e-ラーニングの動画の講師「出冬覚いでふゆ さとる」が出てくるあたりからだったと思います。そう、へび苺メガネの。不眠が原因の幻覚なのか、実は眠れていて夢なのか、現実なのか(ファンタジー小説かもしれないしね)、よく分からない感じになってきます。

いろんな要素が次々に出てきて飽きさせません。純文学とエンタメは両立するんだなと思いました。私は読書をしているとすぐに眠くなるので、小分けにして読むことが多いのですが、『アンチ・グッドモーニング』は就寝予定時間(午後九時)を過ぎていることも忘れて、一気に読んでしまいました。そして、そのあとすぐ寝ました。ぐっすり眠れました。うらやましいですか。

いまちょっと検索してみたら、もうすぐ(2026年6月29日)単行本が出るんですね。楽しみなことは、「もういくつ寝ると・・・」なんて数えたりしますが・・・、寝られるといいですね。


2026年7月14日追記
続報です。
2026年上半期の芥川賞を予想・・・はせずに、賞を新設する

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コメント

“『アンチ・グッドモーニング』と「あのエレベーター」” への1件のフィードバック

  1. […] ノミネート5作を全部読み終えたので(『ソリティアおじさんがいた頃』『アンチ・グッドモーニング』『丹心まごころ』『ゾンビ回収婦』『悪い血』)、さっそく選考に入ろうと思います。とはいえ、築地の料亭の招待状が、私には来ていませんので、勝手に予想する、ということになりましょうか。 […]

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